砥部焼専門店/砥部焼の浜陶 Blog
2025/12/16 17:39
愛媛県伊予郡砥部町で作られる「砥部焼」は、ぽってりとした厚みのある白磁に鮮やかな藍色の絵付けが特徴の伝統的工芸品です。
陶器(土もの)ではなく、石を原料とする磁器(石もの)であるため、非常に丈夫で実用的な器として愛されています。
原石から一つの器が完成するまでには、多くの職人の手と時間を経る必要があります。その工程を4つの段階に分けて、専門用語も交えながら解説します。
陶器(土もの)ではなく、石を原料とする磁器(石もの)であるため、非常に丈夫で実用的な器として愛されています。
原石から一つの器が完成するまでには、多くの職人の手と時間を経る必要があります。その工程を4つの段階に分けて、専門用語も交えながら解説します。

1. 土作り(採石・水簸・土練り)
美しい白磁を生み出すための、最も基礎となる重要な工程です。採石: 砥部焼の原料となるのは、地元の山から採れる「伊予陶石」という岩石です。これは国内でも珍しい、一つの石だけで磁器が作れる良質な石です。
粉砕・水簸: 採掘した石を機械(スタンパーなど)で細かく砕き、粉末状にします。これを水槽に入れて沈殿させ、不純物を取り除き、きめ細かい粒子だけを取り出します。 その後、プレス機で水分を抜き、板状の粘土にします。
土練り: 板状の粘土を、さらに練り機にかけます。最後は職人の手で「菊練り」を行います。
ポイント: 菊練りは、粘土の中の空気を完全に抜き、全体の硬さを均一にするために不可欠な技術です。空気が残っていると、焼成時に破裂する原因になります。
2. 成形と削り(形を作る)
粘土に命を吹き込み、器の形を作る工程です。成形: 主に「ろくろ」を使って形を作ります。熟練の職人は、回転するろくろの上で、同じ大きさ・同じ形の器を次々と正確に挽いていきます。 ※その他、型に泥を流し込む「鋳込み」や、手びねり、板作り(タタラ)などの技法もあります。
削り: 成形したばかりの器はまだ厚みがあり、表面も粗いため、半乾きの状態(生乾き)で削りの作業を行います。 「カンナ」と呼ばれる道具を使い、高台(こうだい:器の底の足部分)を削り出し、全体の厚みを調整して美しい曲線に仕上げます。
乾燥: 水分が残っていると焼く時に割れてしまうため、天日や乾燥室でしっかりと水分を飛ばします。
3. 素焼きと下絵付け(模様を描く)
砥部焼の命とも言える、絵付けの工程です。素焼き: 絵付けをしやすくし、釉薬を掛けられる強度にするため、約900度〜950度の低温で8時間〜15時間ほど焼きます。素焼き後の器は、少しピンクがかった色をしています。
下絵付け: ここが砥部焼の最大の見せ場です。「呉須」と呼ばれる、焼くと藍色に発色する顔料を使って、素焼きの器に直接絵を描きます。 砥部焼の伝統的な文様には、唐草、太陽、なずな、などが多く見られます。
職人技「濃み(だみ)」: 筆にたっぷり含ませた呉須を、指先で調整しながら濃淡をつけて塗る技法です。これにより、単色の藍色の中に深いグラデーションと立体感が生まれます。
4. 施釉と本焼き(完成へ)
ガラス質の膜を作り、硬く焼き締める最終工程です。施釉: 絵付けが終わった器を、「釉薬」が入った桶に浸します。釉薬の原料も伊予陶石と木灰などが使われます。 釉薬を掛けると、描いた絵はいったん白く隠れて見えなくなりますが、焼くことで透明なガラス質に変化し、下絵が鮮やかに浮き上がります。
本焼き: いよいよ窯に入れ、約1300度という高温で15時間〜20時間かけて焼き上げます。 この時、窯の中の酸素を制限する「還元焼成(かんげんしょうせい)」を行うことで、粘土と釉薬が化学反応を起こし、素地は白く、絵柄は鮮やかな藍色になります。
注意点: 本焼きをすると、粘土が焼き締まり、器のサイズは成形時より約1割〜1割5分ほど縮みます。職人はこの収縮率を計算して、最初の成形を行っています。
検品・完成: 窯出しをした後、底を滑らかに研磨し、ヒビや歪みがないか厳しく検品され、ようやく製品として世に出ます。
◎砥部焼は、単に「土を焼いたもの」ではなく、「石を砕き、練り、成形し、筆を走らせ、炎で締める」という、自然の恵みと職人の高度な技術の結晶です。あのぽってりとした温かみのある白さは、これだけの手間暇をかけるからこそ生まれます。
